【感想】ビニール傘(岸政彦)がなぜ芥川賞候補に選ばれたのか理解できない

ビニール傘

アメトーク「読書芸人」で紹介されていた「ビニール傘」を読みました。

同じく読書芸人をきっかけに読んだ「ルビンの割れた壺」「妻に捧げた1778話」がなかなか面白かったので、その勢いのままに3冊目を手に取りました。

正直な感想を率直に書くと「分かりにくい&面白くない」という印象です。

なぜ面白くないのか、なぜ芥川賞候補に選ばれたのか、まとめてみました。

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ビニール傘 あらすじ

共鳴する街の声――。気鋭の社会学者による、初の小説集! 侘しさ、人恋しさ、明日をも知れぬ不安感。大阪の片隅で暮らす、若く貧しい〝俺〞と〝私〞(「ビニール傘」)。

誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる。

巨大な喪失を抱えた男の痛切な心象風景(「背中の月」)。

絶望と向き合い、それでも生きようとする人に静かに寄り添う、二つの物語。

 

ビニール傘 感想

「ビニール傘」は芥川賞候補作に選ばれていますが、一般的な読書好きからすると「???」という印象です。

前半は5人の男性が次々と入れ替わりますが、誰がどのように入れ替わるのかが非常にわかりにくい。

順番に再登場していくならともかく、再登場しない人物もいたりして頭の中がこんがらがりました。

初見で理解するのは不可能。5人の男性が登場するとわかっていても読み解けません。

ビニール傘同様に、使い捨て可能なように人物を描きたかったのだと思うのですが、私は混乱するだけでした。

これが純文学なのでしょうか?

理解しながら読むのではなく、流れるように文章を味わう作品だと思いますが、合わない人には合わないでしょうね。

良かったのは、若者の生活をとことんリアルに描いたこと。

岸政彦さんは社会学者とのことですが、生活を共にしたかのようなディティールのきめ細やかは、様子をイメージしやすかったです。

大阪に住んでいる人であれば、大阪の情景を思い浮かべなら読む楽しさもあります。

ある程度の年齢の方からすると、若者の生活を味わえる体験もできます。

ただし、若者からすると平凡な生活が描かれているだけであり、なおかつ大阪に行ったことがない人だと「???」で終わってしまいます。

楽しむ箇所が少なく、全体的に対象範囲が狭い作品だと思います。

 

ビニール傘 2部構成の意味は?

「ビニール傘」は2部構成に分かれています。

  • ビニール傘
  • 背中の月

ここで前半と後半が連動していると思いきや、まったく連動していません。

私はどうしても伏線を探して読んでしまいがちですが、それらしき表現はあるものの、読み込んでいくと全く関連性がないことがわかり拍子抜けします。

作品が短いため、お話をもう1つ追加したのだろうと思いますが、マイナス効果なのは間違いありません。

このクオリティとこの短さで¥1,512は高いですね。

 

ビニール傘は芥川賞でどう審査されたのか

ということで、私にはなぜこの作品が芥川賞候補に選ばれたのか全く理解できませんでした。

プロの審査員はどう評価したのか、まとめてみました。

「例えば科学者がマウスを使って実験するように、社会学者が顔のない若者たちをサンプルのように扱い描く。」「ただ、読み終えたとき、サンプル扱いされた彼らをどう見ればいいのか分からなくなった。」「では、岸さんが描くもっと希望のある世界を読みたかったのか。いや、違う。逆にもっと残酷な世界を読みたかったのだと思う。
吉田修一

「(引用者注:「しんせかい」と共に)作家の本能に逆らうようにして書かれた、ユニークな作品だった。」「『ビニール傘』が面白いのは、若者たち一人一人の個性を際立たせるのではなく、彼らの共通する部分に意義を見出している点だ。パッチワークを作る時、普通は柄の違いに気を取られるが、岸さんは縫い代を見ている。」「じっくり時間をかけて議論したいと思わせる魅力を持っていたにもかかわらず、早い段階で落選が決まったのは残念だった。」
小川洋子

「こうした作品は苦手だが、重ねた何枚かのガラスを通して見るようなズレが、作者の視力不足や逃げやごまかしでないのは解る。」
高樹のぶ子

「それが誰であっても変わらぬ、その意味で個性を欠いた、互換可能な「俺」が交錯する前半部は、「個」を描くのが近代小説であるとの前提を逆手にとる方法意識に貫かれて、興味を牽き、面白く読めた。が、後半に至って、主人公が一女性に収斂して以降、方法意識はやや希薄となり、平凡な物語の様相を呈してしまったのが惜しまれる。」
奥泉光

「題名が効いていない感じ。(引用者中略)小説の短かさにおいて、思わせぶりは邪魔になる。」「ただ、このはきだめ感は悪くない。もう少しだけ、すり切れた魅力が出ていればなあ、と感じた。シャビーな情景で読者を引き付けておくのは難しいのだ。」
山田詠美

「最初に登場するタクシー運転手が、次にどのように再登場したのか。あのガールズバーの女と、次に出てくる女は同じ人間なのか。そこのところをもう少し読む人にわかるように書くべきであろう。あえてわからなくさせることが純文学的だと考えているなら、それはおおいなる錯誤である。」「岸さんのディテールの描写が卓越しているだけに、苦言を呈しておきたい。」
宮本輝

「ここに並んでいるのは、自分の居場所を探している途中で誰かに接したときに生まれる、使い捨て可能な、距離のある思いやりだ。困っている相手に差し出しても、返して欲しいとは思わないビニール傘。これは貸し借りをはみ出した何かのあらわれだろう。」「第二部では、そのような意味での傘にわずかな破れ目が生じている。」
堀江敏幸

「場末の光景を点描した写真集のキャプション集としては秀逸。」「社会現象のサンプリングは社会学の得意とするところではあるが、名付け得ぬものを前にした時、人はその具体性に拘泥したがるもので、そのために小説というジャンルが存在するといっても過言ではない。そんな気づきをそっと私どもに授けてくれただけでもありがたい。」
島田雅彦

「言葉に余分な負荷がかかっていないのに、これだけのそぎ落とされた長さの中でこれだけの濃密なものを書き上げたことがすばらしかった。ただ、作中のさまざまな断片の、つながり具合は(つながっていない具合もふくめ)、もっと意図してつくってもよかったのではないか。
川上弘美

私同様に「わかりにくい」と評した方も多くて安心しました。

評価されている理由も垣間みえていますが、全体的に中途半端な印象が強いですね。

私はあまり楽しめませんでしたが、大阪に住んでいる方であればどうぞ。

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